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大阪地方裁判所 昭和23年(行)135号 判決

原告 大谷篤弘 外二名

被告 大阪市東住吉区農業委員会・国

主文

原告等の訴を却下する。

訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は「大阪市東住吉区平野野堂町三一二番地畑一反五畝九歩につき、東住吉区農地委員会が昭和二二年九月に定めた買収計画を取消す。被告国は右買収計画の無効なること並に右買収計画に基因する各行政処分の執行力のないことを確認すべし、訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決をもとめ、その請求の原因としてつぎの通り述べた。

「東住吉区農地委員会(被告委員会)は、原告三名がその先代大谷照良の死亡(昭和二〇年四月二四日戦死)により遺産相続によつて取得した請求の趣旨記載の土地につき、昭和二二年九月原告等先代を所有者として自作農創設特別措置法による買収計画を定めてこれを公告したので、原告等は先代名義を以て同年一〇月六日異議を申立て、これを棄却せらるるや更に同年一一月六日同様先代名義で大阪府農地委員会に訴願したが、同年一二月一日付で訴願棄却の裁決があり、その裁決書を翌二三年六月二一日に受領した。

しかし、右買収計画はつぎの点で違法である。

一、本件土地は区劃整理施行の地区内にあつて、宅地化すべき義務のある土地であるから、この区劃整理施行の目的趣旨に反する農地買収計画は宅地化を封鎖するもので違法である。

二、また本件土地は仮換地指定ずみのものである。仮換地手続が完結すればその仮換地は条件付に既に換地として定められているので、使用権占有権は当然にその地上に移るのであり、ただ完全なる所有権のみが未定であるにすぎない。従つて仮換地指定後はその地上の地番地積及び賃貸価格を標準として買収計画を定むべきであるのに、これを従来の地番地積等で定めたのは違法である。

三、また本件土地が農地であることは争わないが、近く宅地化することを相当とするものであるから当然買収より除外すべきである。

四、なお原告等先代は前記のように昭和二〇年四月二四日死亡し原告等において遺産相続により右土地の所有権を取得しているのに、死亡者である先代を所有者として買収計画を立てたのは違法である。

以上の理由により原告等は被告委員会に対し本件買収計画の取消を求めるものであるが、なお被告国は右買収計画が適法有効なものとして、これに基く買収令書の発行その他の行政処分を逐次遂行しようとしているので、被告国に対し右買収計画の無効なること並にこれに基因する各行政処分の執行力のないことの確認を求める。」

また被告等の主張に対し次の通り述べた。

「大阪府知事から昭和二九年六月二五日付の文書で本件土地についての昭和二二年一二月二日を買収期日とする買収令書を取消す旨の通知が原告等親権者に到達した事実はこれを認める。被告委員会から買収計画取消の通知が来たか否か今明かにすることはできない。しかしこれが到達していたにしても、右買収計画の取消も、買収令書の取消も、原告等先代の大谷照良宛のものであつて、死者に対するものであるから無効である。」

被告等訴訟代理人は「原告等の訴を却下する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、答弁としてつぎの通り述べた。

「原告等主張の土地につき被告委員会が原告等主張の時(正確には昭和二二年九月二八日である)にその主張のような買収計画を立て、その公告をしたこと、原告等から原告等主張のような異議及び訴願の申立があり、それぞれ原告等主張のような決定及び裁決があり、その裁決書が原告等主張の日に原告等に到達したこと、右土地は原告等先代大谷照良の所有であつたが、同人が昭和二〇年四月二四日に死亡したため原告等において遺産相続によりその所有権を取得したものであることはいずれもこれを認める。

右土地は原告等先代の大谷照良を所有者として、不在地主の所有する小作地たる農地としてその買収計画を定めたものであるが、その後右計画当時には大谷照良は既に死亡していて原告等に右土地の所有権が移つていたことが判明したので、被告委員会は昭和二五年三月二四日右買収計画を取消し、同月二八日大阪府農地委員会の承認を得たので同年五月一六日付通知書を以てこの旨を原告等に通知し、大阪府知事もまた右買収計画に基いて発した買収令書を昭和二九年六月二五日に取消し、同日付の書面を以てその旨原告等親権者に通知している。従つて本件買収計画は既に適法に取消され、はじめから効力がなかつたことになつているのであるから、これと同じ法律効果の確定を目的とする本訴は訴の利益を欠くものであり却下せらるべきである。」

(証拠省略)

理由

被告委員会が昭和二二年九月二八日本件土地につき原告等主張のような買収計画を立てこれを公告したこと、原告等から原告等主張のような異議及び訴願の申立があり、それぞれ原告等主張のような決定及び裁決があり、その裁決書が昭和二三年六月二一日に原告等に到達したこと、右土地は原告等先代大谷照良の所有であつたが、同人が昭和二〇年四月二四日に死亡したため原告等において遺産相続によりその所有権を取得したものであることはいずれも当事者間に争いがない。

そして成立に争いのない乙第七乃至第一〇号証に本件口頭弁論の全趣旨を総合すれば、被告委員会は本件買収計画にあつては原告等先代大谷照良を所有者としてその計画を立てたものであつたが、その後右計画当時には既に同人が死亡しており、本件土地の所有権は遺産相続によつて原告等に移つていたことが判明したので、昭和二五年三月二四日の会議で右買収計画を取消す旨の決議をし、同月二八日この取消についての大阪府農地委員会の承認を得て、同年五月一六日付大谷照良宛の通知書を以て原告等親権者にこの旨通知し、また大阪府知事も右買収計画に基いて発した買収令書を昭和二九年六月二五日に取消し、同日付大谷照良宛の書面を以てその旨原告等親権者に通知した事実を認めることができる。

被告委員会の本件買収計画取消の理由は、右のように原告等三名の遺産相続による所有権取得の事実を知らず、先代を所有者としてした買収計画を違法と認めたことによるものであり、その点右の取消は適法といわねばならない。

原告等は右買収計画の取消も買収令書の取消も原告等先代宛であるから無効であると主張する。しかし本件にあつては買収計画も買収令書の交付による買収処分も、いずれも原告等先代を所有者とし、買収処分は先代宛にせられたものであるから、その取消もまた原告等先代を所有者としてした右各処分を取消すのが当然であり、その通知を買収処分の場合におけると同様先代宛の通知書を以てすることも、その告知としてやはり適当と解せられるので、右各処分の取消及びその告知はいずれも適法といわなければならない。

そうすると、本件土地に対する買収計画は既に取消され、はじめから効力がなかつたことになつたのであるから、原告等の本訴請求のうち右計画の取消及び無効の確認を求める部分の訴は結局もはやこれを維持して判決を求める利益を欠くに至つたものというべきであり、また右買収計画に基因する各行政処分の執行力のないことの確認を求める部分の訴は、如何なる行政処分をその対象とするのか、その訴の目的が不確定であるから、この部分の訴も不適法であつて、結局原告等の本訴は現在においては全部不適法として却下を免れない。

よつて原告等の本訴をすべて却下することとし、訴訟費用の負担については、本訴の主要な部分が被告国の機関である被告委員会の、原告等の本訴における主張を認めた取消処分によつて不適法となり却下されることとなつたことから考えて、民事訴訟法第九〇条によりこれを被告等の負担とすることとし、主文の通り判決する。

(裁判官 山下朝一 鈴木敏夫 萩原寿雄)

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